研究の概要

 中央ユーラシアとは、西部には南ロシア平原、中央部には東西トルキスタン、東部にはモンゴル高原を擁する広大な地域である。

 本地域に往来・移住した民族は、遊牧民としては、スキタイ、匈奴、少し後には突厥、モンゴル人など、定住民としてはソグド人・ウイグル人など、半農・半狩猟の民としては満州人をはじめとするツングース系の諸民族がいる。これら中央ユーラシアに往来する諸民族が歴史的にも文化的にも世界史に大きな影響を与えてきたことはよく知られている。

 たとえば、中国の王朝の中でもとくに繁栄した王朝である元・清はそれぞれモンゴル人、満州人が中央ユーラシアから南下してたてた王朝であり、インドのほぼ全土を統一したムガル帝国も、中央ユーラシアから南下したチムール帝国の末裔がたてた国である。東西をまたにかけたモンゴル帝国が世界史に与えた影響がいかに大なるものであったかは言を俟たない。

 このように、中央ユーラシアの諸民族は世界史に対して政治的・軍事的な影響力を有したのみならず、文化的にも非常に重要な役割を果たしてきた。多くの帝国の精神史の重要な一角を形成しているゾロアスター教、北伝仏教、チベット仏教は、この中央ユーラシアで生まれ、育まれたものである。

 中央ユーラシアの歴史と文化が世界史に対して与えた影響は多大であるにもかかわらず、その研究は概して盛んと言えない。その理由の一つとしては、現在中央ユーラシアの諸民族のほとんどが、ヨーロッパ、ロシア、中国、インドなどの国民国家の中に組み込まれて存在しており、その歴史・文化的事象を一貫した視点で研究すること、評価することが難しくなっているからである。

 このような現状を踏まえて、本研究所は、中央ユーラシアに関連する研究を行っている研究者が、プロジェクトの遂行を通じて情報や視点を共有・交換する中から、現在の国家や民族の壁にとらわれることのない、より普遍的な中央ユーラシア像を構築していくことをめざす。